2015年5月14日木曜日

書けといわれてないけどその②




---良い意味でも、悪い意味でも衆目を浴びる。
 金属製ヘルム、金属を打ち込んだハードレザー、おそらくは鎖帷子。
 少なくとも『夜の酒場』に来る様な姿ではない。

そしてその声は無骨な冒険者とは程遠い印象すら受けた。

「はいっ!麦エールとチーズ!パンは冷えちゃってるから今あたためてますっ!」
「・・・どうも。」

---カチャ---
可動式のヘルムだ、絶妙な角度で顔が見えない。
食事も半分を終わるころ、大柄な初老がカウンター越しに話しかける。

「兄さん・・・冒険者かね?」
「・・・そうだ、ダンジョンが出来たんだろう?」
「探索者希望か、どっかで冒険者登録はしてるか?」
「・・・首都で、登録証を出す。」

---冒険者登録証
各街ごとの酒場、冒険者組合などで発効される冒険者の証明書、無ければ無いで再発効や問い合わせ、依頼の斡旋も可能ではあるが、信用を売る側面もある冒険者にとっては必須の品である。


「・・・・ほう!?驚いた。こいつは"鉄"か!?こんな田舎に来るレベルじゃねえだろう!?」
「ダンジョンがあると聞いた、それに間違いは無いな。」
「ああ・・・ダンジョンは確かにあるが・・・うむ・・・。」

---"鉄"、その言葉を聴いた冒険者の腕が止まる。
冒険者ランク
冒険者はギルドや酒場への登録が行われた後、実績や能力に応じてランク付けさせられる。
金>>銀>銅>黒金>鉄>赤石>黄石>緑石>灰石>砂 といった具合にだ。

"金"級の冒険者なんかは冒険なんかしなくても十分な財を溜め込んでいて、ある意味貴族のような生活すら出来るとは言われている。

その中での"鉄"、こんな田舎で害虫やチンピラ退治に精を出すような冒険者ではない。


「まあ、確かにこいつは問題なく首都で発行されたもんだが・・・あんた・・・いつから"鉄"なんだ?」
「・・・2ヶ月前、遺跡を潰した。」
「何人でだ?」
「・・・1人。」
「はぁ!?」

---大柄の初老は耳を疑う。
『こいつ・・・1人で遺跡潰ししちまうくらいの冒険者だってのか?』
『いや、冗談が上手いほうなんだろう、 大規模な捜索で戦功でも上げたんだろう。逆に1人で遺跡潰しちまうくらいで"鉄"はねえよな"鉄"は。』

「ハハハハハハ、まあ良い。"鉄"級の冒険者が来てくれちまってるんだ!これでこの街も更なる安心と繁栄が約束されるってもんよ!期待してるぜ!『アマリネ』!」

---初老が去る間際
「はーい!パン温め終わりましたー!!こちらの小スープはサービスとな・・・」
「ちょっとまてええええええええええやぁ!!?」
「ひゃぁ!?」

---無骨な声が響く、スープも床にこぼれる。
「お前がぁ!?"鉄"ゥ!?お前のようなのがぁ!?"鉄"ぅ!?俺疑っちまうんだよなぁ!!」
「こんなちっちぇえのが"鉄"って名乗っちまっていいのかぁ?」

---確かに"鉄"の冒険者よりも・・・倍・・・いや・・・倍以上大きい男が顔を変形させながら横に座る。
「あ・・・すいません!!今床お拭きしますので少々その席はおまちくだs」
「いぃいいんだよぉ~?クーリィちゃぁああん?俺はねぇ?こいつに用があるんだよぉ??後でゆううううううううううううっくりたのしんじゃおうねぇぇえええ?」
「ひぃっ・・・・・・。」

---クーリィという名の給仕に取ってこの男『ブーカ』は『気持ち悪い』の何者でもなかった。

『なぁ~、マスターァ!?クーリィ君買わせてくれよぉ!!金は出すからさぁ~?』
『断る、あの子はそういう子じゃあない。』
『マスタァアアアアア?俺女じゃ抱けねえんだよおおおお、クーリィ君買わせてくれよぉおおお?』
『 しつこいぞブーカ・・・隣街に男娼の館があるから行って来い。』
『マスタアアアアアアア?クーリィ君をぶっこわして犯しええんだよおおおおおおお』
『まったく・・・ほら、手配したから行って来い。』
『マスタアアアアアア!あきらめねえええどおおおおおお?』

こんなやり取りは1度や2度じゃない。ただ抜群に腕っ節は立つため酒場としても『現状飼いならす』以外に無い冒険者という側面もある男はアマリネと言う名の戦士の横に座り、大声で捲くし立てる。

「よおおおおおおおおおおお?"鉄"?"鉄"なんかお前エエ?」
「・・・酔ってるのか。」
「よおおおおおおおってねえええええよおおおおお?今来たばかりだよぉおお!?ねえええクーリィちゃあああああん!?」
「・・・ひぃい・・。」

「食事を。」

「あぁ?」




「----食事を、させてくれないか。」





「ああぁぁぁ!?」


---ドオオオオオオン、轟音。
カウンター席は巨躯の男が振り回した腕で縦につぶれてしまう。

「ブゥウウウウウウカアアアアアア!!!貴様またもの壊しがったなあ!!!」
「黙れ藁っかすどもがあああああ!!!俺を無視して飯を食うこの"鉄"が悪いんだよおおおおおおお!!!」
「また憲兵に引き渡されてえかこの糞チンピラ!!」
「あああああああん?!それなら俺に勝ってからにしろよおおおおおおおおおお!?憲兵すら殺せる俺が"緑石"でこいつが"鉄"ぅ、とか俺はしんじることができねえだろおおおおおおお!!」
「信じることができねええならこいつが嘘ついてるんだよおおおおおお!!おれは間違ってねえええええええ!!!」

『あ、こいつ頭イカれちまってる』

---その場の誰もがそう思いながらも、この男『ブーカ』へ武力で対抗しようとする冒険者は誰も居なかった。


「・・・やるのか。」
「えええええええええええ?抱かれたいのかあああああああ?いい男のにおいするもんなあああああああああああ?」
「・・・物狂いか。」
「あああああああん?誰があたまおかしいいってええええええ!!?」

「・・・マスター、ここでは"可能"なのか?」
「私闘を許可する、ただし外の通りでだ。みんなぁ!!人払いと賭けの用意しろぉ!!!」
「あああああああああん?俺はいまひねりたいいんんだけどおおおおお?」

「黙れブーカ!」 「!!」
---威圧、紛れもなく殺気である。大柄の初老『店長』が一喝ともに放ったものは怒気すら奥底にしまいこんだ殺気である。この問題児がぎりぎり制御できているのはこの『店長』がこの酒場に居ることは想像に難くなかった。

「賭けと場所は今用意しとる、まずは飯を食え。・・・・クリ坊!!」
「はい!」

「この"鉄"様と"緑石"に豪華な食事の用意をとコックに伝えぃ!!」
「はい!!」

「ブーカ!!自分の席に戻れ!!私闘のルールは知っているな!人の店と家をぶっこわしよって!勝ってもただでは済まさんぞ!!」

「ああああああ?私闘おおおおおお?負けるわけねえからああああ?商品はこの"鉄"をめちゃくちゃにさせてくれよおおおおおお?」

---こいつ、"鉄"を犯る気だ。
クーリィは背筋に寒いものを感じ、コックの下へ走る。
そうこうしているうちに食事と酒が届いたとの伝えられブーカは自分のテーブルへ戻っていった。

「マスター、注文がある。」

「・・・注文を聞こう。」
 
「さっきの少年がこぼしたスープを、一つ」
「・・・承った。」

「・・・酒場から一つ『依頼』がある、依頼者は『街長(まちおさ)』だ。」
「・・・『街長?』」
「わしだ」
「・・・・・・?」
「ここはわしの家だ、改装したんだよ。」
「は?」
「なにぶん人が大量に入る建物がなくてのお、わしが私財をなげうったってわけよ。」
「・・・変わり者だな。」
「よう言われとる。で、依頼だが。」
「「ブーカを倒せ」」「・・・だな。」
「・・・驚いた、心読の魔法でも使うのか。」
「こんな状況じゃ本人以外はわかる。・・・報酬は。」

「今考えとる最中じゃわい、まったくブーカの野郎ダンジョンやゴブリン退治、果てはリトルオーガなんかですら物ともしないんじゃがあの頭の悪さと、酒と男で既に狂っちまったみたいでな。わしにこいつを有事まで押さえ込んでおけという国からの依頼がなければとっくにぶっ殺しておるわい。」
「・・・いいのか?」
「ああ、こんなん抱えておったらこの街の評判すら危ういからな!ただでさえ男娼の館を2件も潰されて他の街がカンカンになっておるよ、本当に周りの街と起こすいざこざってのは怖くてのぉ。で、報酬の話じゃが・・・」
「後でいい。」
「ほ?」

「報酬は終わった後でかまわない、食事をさせてくれ。」
「ハハハハ、お前さんも冒険者としては変わり者のようだ!いい飯食わせてやっから『最後の晩餐』にはならないでくれよ!!」
「・・・あくどい男だ。」
「ハハハ!よう言われとる!最後に自己紹介だ、この街の長で酒場の『店長』、『デューク・タカタ』と言う!皆はマスターと呼んでおる!これからもよろしくとありたいもんじゃな!」
「・・・変わった男だ。」
「さっきも言われとるよ。」
「その依頼、受けよう。」
「ああ・・・期待しとる。」


「先ほどは申し訳ありませんでした!!こちらのスープはパンにつけてお楽しみください!!」
---銀髪で長い髪を後ろで縛った少年が、小さめの皿でスープを運んできた。
一口、 口に含む。

---久しぶりに、暖かさを感じた。


2幕目、終わり。


ここまで貧乳関係ないね!名前借りただけだねこれ!!爆発四散しそう。

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